
「11月1日。この前ですけれども、
相手は片上大輔六段ですね。片上六段は年齢は30歳です。なかなか感じのいい人で、もう結婚してるんですけどね。片上さんとは今まで3局戦ってまして3回とも完敗してます。4局目だったんです。11月1日の対局が」
「で、私が勝てば1300勝達成と言う対局でね、片上さんはいつものように私を負かそうと思っていたと思うんですけれども、なんかまったく理由はわかりませんけれども、将棋連盟の本部から『加藤さんと片上さんの今度の対局は加藤さんの1300勝がかかっている』という通達があったそうなんですね。さっぱりわかりません。どうしたんでしょうね。だって、そうなってくるとたぶんわたくしよりも相手の片上六段のほうがプレッシャー掛かるんじゃないでしょうかね?」
「ちょっとデリケートな心境になってしまうんじゃないかと思いますよ。かえって片上六段は知らされたために、若干冴えなかったと思いますよね。余計なことを知らさないほうがいいですよね」

「毎日新聞と朝日新聞主催の棋戦だったんですけれども、12時ちょっと前に終わった後に毎日新聞の記者から15分ほどインタビュー受けまして、毎日新聞は第一報をインターネットで流しまして、あと、Yahoo!とかでもニュースが流れたそうで」
「わたくしが
『1300勝おめでとう』と今まで言われたのは、
イギリスから若夫婦、それから韓国から若夫婦、カタールから若夫婦ですね。それからですね、もちろん日本からも・・・若夫婦」で、会場大爆笑!
「お祝いのメールや電話を頂いたんですね。どうして世界中に広がっている若夫婦からお祝いが来たかというと、教会で結婚式を挙げる方のために結婚講座を1回90分、20回してるんです。それでなんですよ」

「わたくしがですね、
1982年7月31日夜9時1分に名人になった時にはですね、日本のマスコミ40社から新聞、雑誌、テレビから取材を受けまして、代表的なのが月刊文春の日本の顔というのに登場しましたし、
今から4,5年ほど前に1000敗を達成した時に・・・達成と言うのは変な表現ですけれども、不本意ながら、心ならずも1000回負けた時ですね」で、会場大爆笑!

「なんと、『加藤さん見事だ』ということで、この時もマスコミ各社20社ほどから取材がありました。何が疑問かってね。たいして見事だとは思っていませんけどね。だって、1000回も負けているわけですからね。1000回も負けて見事だって言われるのはある意味100パーセント納得できないけれども、半分はできています」
「その時のマスコミの言葉はこうでした。『日本の社会はハッキリ言って殺伐としている。加藤さんのように負けても負けてもめげないで希望を持って熱く戦っている姿を社会の人に伝えたい』と言うことでですね、負けて褒められたんですね」

「ちなみに、今回1300勝だったでしょ。Yahoo!でも、共同通信も記事にしましたので、全国の地方新聞の記事になっています。数で言えば大変な数の人が1300勝の記事を読んでいるはずですが、わたくしの推測ですが1社からもインタビューは無いと思います。なぜなら1300勝というのは話題性に乏しいと思います」
「あっ、そうそう。今日の講演会ですよ。わたくしはですね30歳の頃から大学の学園祭で講演をしたいという夢を持っていまして、1か月ほど前に学習院大学の弁論部の方から講演の依頼が来ました。これは夢かと思いました。ホント嬉しかったんですよ。それで、その時1300勝を達成してこの壇上におるとは夢にも思っていませんでした」

「1300勝はたぶん記事になるだろうけど、1300勝の記事が出るというのが頭にチラついたら負けるって思ったんです。片上六段と戦う前、10月27日。相手は西川四段ですよ。西川四段のお父さんも棋士でお父さんともわたくし戦っていましていい将棋を指しますよ」
「対局通知というのが大体3週間ぐらい前に連盟から送られてきます。でも、
西川さんやその前の大石さんの顔がわからないんですよ。なので、写真をFAXで送ってもらったんですよ。それで、『あぁ、これが西川さんか、これが大石さんか』と思ってですね戦う準備をしたんだけれども、いざ対局当日に目の前に来た
大石さんや西川四段の顔を見たら、全然似てないんですよ!」で、会場大爆笑!

「いや、おかしいですよね。写真をFAXを送ってもらって、この人と戦うんだなって思って、朝『おはようございます』って顔を見たら、
ほとんど似てないんですよ。50パーセントも似てないんですよ。どういうことなんでしょうね?」で、会場大爆笑!

「それでですね。西川四段との10月27日の将棋は
実を言うと内容で言うと圧勝の将棋なんですよ。最後の最後土壇場でわたくしが6一龍とさえ指せば勝ってるんです。でも、それを指さないで負けてしまったんでね。
本当は『10月27日に加藤一二三九段は1300勝を達成した』と言ってもほとんどおかしくないんですけれども、計らずも片上六段を負かしての達成となったんです。片上六段は上り調子で成長期なので、
その片上六段を負かしての大記録達成だったということは気分が良いよねっていうのがわたくしの心境なんですよね」

「西川四段との6一龍と指せば勝ちだったと思って家に帰る時にですね、口惜しがってですね、ホントに後悔してたんだけれども、大記録達成だっていうのが頭にあったから最後の最後でミスしちゃった」
「それで、対片上戦ではですね、一切考えませんでした。とは言いながらも考えないって決めたからって『チラチラ』とはしてきますよ」で、会場大爆笑!
講演会開始から1時間以上が経過して・・・
「時間はまだ・・・ありますよね」
「ちょっと、あまり予定していなかった話をほとんどしてるんですよね」で、会場大爆笑!
「あの、予定していた話をしますと、わたくしが最初に悟りを開いたのはですね、昭和43年の第7期十段戦七番勝負。相手は大山康晴十段。で、大山さんは第1期から第6期までずっと十段。七番勝負で2連敗しちゃいまして、終わった後打ち上げの席で立会人であった二上八段にビールをついでもらいながらビールを飲んだ時にですね。初めての経験ですけれども、フッとこういう思いが浮かんできました」
「
『今日の将棋は負けて2連敗したんだけれども、第7期の十段にはわたくしが絶対になれる』という思いがフッと浮かんできました。わたくしはこう思ったんです。
『まったく予期せずフッと浮かんできた事なので実現する』と思ったんです。で、実際に実現致しました」

「先ほど弁論部の方とお話してたんですけれども、わたくしの思い違いでなければ、私以前昭和44年に『十段』になったという話をしました。学習院大学の著名な児玉幸多先生という日本史の大先生がいらっしゃるんですね。その児玉先生の日本史年表というのをですね、読んだことがあるんですよ。なんとそこにですね、
『加藤一二三が昭和44年に十段になった』というのが書かれてあったんですよ。僕も自分の目で見たから夢ではない」
「それで先ほど『児玉先生の消息は?』と伺ったら、学習院大学の学長もされていてですね、2007年に亡くなられていらっしゃる。で、間違いなく児玉先生は将棋がお好きだったと思います。それもあったんでしょうけど、驚きますよ。だって、日本史の年表でね、有名な作曲家とかが出てくるわけじゃないんですよ。例えば山田耕筰先生の音楽が出てくるわけじゃないんですよ」
「加藤一二三十段誕生というのがですね年表に入ってるんです。本当は時間があれば国会図書館に行ったり、学習院大学の図書館に行って冊子を見れば、100パーセントこれは本当ですよって皆さまにご披露できるんですけれども、これは絶対本当なんですよ」
「スゴイでしょ?」
「だって、日本史の近代の歴史の中で突出してますよね?」で、会場大爆笑!
「突然、加藤一二三十段誕生って来るんですよ。一般の方は『いったいこれ何だろか?』って思いますよね。著名な学者でもないし、著名な作家でもないし、著名な芸術家でもないしですね」
「児玉先生というのは大変見識のある大見識のある学者だったんじゃないかと思います」で、会場大爆笑!

「学園祭で講演頼まれたのは本当に嬉しかったですね。大変良かったですね。色んな物事が起こっていきますし、色んなことがあるんですけれども、
色んな出来事の中に何を我々が問われるのだろうか?という事を思いつつ人生を歩んでいくというのが良い事だと言われているんですけれどもね。なかなか出来事の中にどうしていくかというのを汲み取るのは難しい事なんですけれども、よくよく静かに耳を澄まして心をひそめて、静かに思いを寄せていくと私の歩むべき道はここじゃないかというのが自然に浮かんでくる時もあるんじゃないかというふうに思うんですけれどもね。ということで、時間になりましたので、もしご質問があればお受けしたいと思います」

質問
「今回のテーマは『将棋と人生』ですが、以前一二三先生は将棋は序盤で決まるとおっしゃっていましたけれども、人生に関してはどのように考えていらっしゃいますか?」
「人生はですね・・・なんだか先輩面しちゃいますけれども。人生というのは、僕の経験というのは、幸せになるチャンスは誰にでもあって、1回や2回じゃなくて、例えば旧約聖書の言葉だったら、『7回倒れても8回立ち上がるチャンスがある』それから『転んで立ち上がる時には手に何か掴んで立ち上がれ』って。我々の信仰というのは神を信じていますから、神が見守ってくださっているから、神の教えとかに著しく背かない限りはやり直しもきくし、チャンスもあります」

質問
「加藤先生は『1300勝のうち1000局が名局だ』とおっしゃっていましたが、負けた対局のうち名局は何局あるのでしょうか?」
「そうなんですよね。谷川浩司さんっているでしょ。谷川さんはね負けてもいい将棋はあるって言うんですね。わたくしはですね、負けた将棋はそれなりの欠点があるから、わたくしの場合で言えば持ち時間を使い切って、残り1分になって慌てて負けるっていうのが一番多いんですけれども、負けるというのはどこかに欠陥があるから負けるんだから、負けた将棋には名局はないと思うんだけれども、ただし、
負けた直後に大いなる自信が出てくるということは僕の経験で二度ありましたね。二上さんにビールをついでもらって、ビールを飲んだ時に大いなる自信が生じて十段になりました。中原さんに4連敗してその時に負けたんだけれども、直後に王位になる自信が出ましたね」

2時間近くもの長い時間、多くの笑いを交えての講演会終了後に撮影をお願いしました☆
1300勝達成おめでとうございます!
この講演会の記事を読んで加藤一二三先生に興味を持たれた方は、加藤一二三先生著の
「老いと勝負と信仰と」をお読みしてみるのも良いかと思います
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