質問「将棋の駒の数が40個あって、手番を入れると41個変数があるので、数学だと41次元空間みたいなものだと思うのですが、詰みのある局面というのはその中の特異点だと思うのですが、評価関数で次の手を考える際にそういうことも考えているのでしょうか?」
保木邦仁さん「多次元解析でよくやられる、より正解率を上げていくとかそういう話に関連性があるなと思ったんですけれども、どうもそういうのは将棋ではうまくいっていません。詰みやすい形を認識するとか、寄っていそうな形とかは人間はパッと見わかるみたいですが、いまだにコンピューターは駒がたくさんあるので、41個次元があるとおっしゃいましたけど、たくさん次元があってなかなか解析しきれないんですけど、
人間は『パッと見でなんとなく寄っていそうだ』とか強い人は言うんですけど、コンピューターはまだできていません。そういうのができないと人間には勝てないんじゃないかと思われていたんですけれども、
そういうのができないまま人間を追い越してしまうんじゃないかなぁという感触を得ています」
山下宏さん「さっき、局面の話がありましたけど、仮に駒をでたらめに作っていくと、
でたらめに作った局面の9割以上は簡単に詰んでしまう局面なんですね。つまり結論が出てる局面なんです。で、実際の局面というのはものすごく稀な局面なんですよ。ほとんど存在しないような。だから、
地球全体が将棋の局面だとしますと、プロ棋士が戦っているのは、東京湾の一部とかそういう小さな領域で将棋をしているんですね」
勝又清和六段
「こういった局面がほとんど奇跡的である。お互い反則のない状態でバラバラと並べても、並べた局面の9割ぐらいは詰んじゃっていると」
山下さん「そうですね」
勝又六段
「初めて聞きました」
質問「コンピューターが強くなっている中で、奨励会の6級の受験制度などがあれば面白いなぁと思うのですが、検討されていますでしょうか?」
上野裕和五段
「絶対反対です!」で、会場に笑いが!
上野五段「やっぱり
奨励会というのは、プロを目指すというものなのでコンピューターがどこまでやれるのかというのは違う形でやるのがいいのかなと思います。理屈的には面白いというのはあるとは思いますし、メリットもあると思うのですが、私も棋士なので生理的に受け付けないんですね」
勝又六段「私も反対なんですけど、その理由は楽しむかどうかというので、他の分野で例えば箱根駅伝でそこに車が一緒に走って面白いのでしょうか。それに近い感覚を覚えるわけですね。いずれは人間を追い越すだろうということは私も思います。ただ、そういうのを将棋ファンは本当に見たいんでしょうか?
人間同士の戦いを面白がって欲しいなというのが将棋連盟なので。ついでに、つい最近私が感動した将棋を紹介させてください」
「これは1月13日に行われた、森内-藤井の順位戦ですね。終わった時間を見て欲しいんです。最初の将棋が千日手になったんです」
19時14分です
「30分後に指し直して、次の将棋が終わったのが
午前3時42分。朝10時に初めて翌日3時ですから、
17時間42分戦ったわけですね。これのすごいのはものすごく戦ってお互いヘトヘトになって、普通だったら疲労が一番のヒューマンエラーですから最後ボロボロになるはずなんですけど、最後がスゴイ素晴らしかったからなんですね。勝ったのは森内九段だったんですけど、その手を見てください」
「この局面はほとんど藤井九段の勝ちの局面で、ここで何を指したかと言いますと・・・」
「タダのところに銀を捨てたんです。これ指したのが3時30分ぐらいでしたかね。ヘトヘトになった状態でずっと1分将棋で、最後にここから銀が打てる。これこそがトッププロ。その前に藤井九段が簡単な寄せを逃しています。今だったら5秒で正解を見つけてしまうでしょう。ただ、そういう問題じゃなくて、やっぱりこういうのを見たいという。間違えてもいいから。と思うので、
ぜひともプロ棋士の将棋を見て頂きたいと思います。よろしくお願いします」
質問「自宅でコンピューターソフトで将棋を指しているのですが、人ではなくコンピューターと指すことによってメリットとデメリットはありますか?」
勝又六段「実はボクはほとんど指していません。目を酷使してしまうと疲れやすくなってしまうのでやりませんけれども、羽生名人は
『変なクセがついてしまうからやらない』とか雑誌のインタビューで答えてましたかね。やって損にはならないとは思いますけれども、とがめるのは難しいけれども変な手順を続けられてしまうとリズムが狂っちゃうのはありますよね。ただ、終盤厳しい中での一手違いの将棋になった時に相手は必ず正確に指しますから終盤は鍛えられるかもしれませんね」
part7<完>に続く
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